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精神科医・森隆徳が語る医療に活きるクイズ(全4回)
第3回 『早押し機に触れた患者さんは、いきいきとした表情に』


 

──── ここからは、今回のイベントの本題である、医療活動における“クイズの活かし方”について伺っていきたいと思います。森さんは震災翌年の2012年に徳山静養院の院長に就任されました。現在は精神科のお仕事でクイズを活用されながら、「クイズの効果」について研究されていらっしゃいます。

研究って言うと大げさな印象ですけど、まずは仮説を立ててみて「こういうことを試して、こんな感じで取り組んでみたら面白いのではないか」という点は常に意識しています。

ところで僕は高校を出て医者になるまで11年かかっていますから、同級生が600人くらいいるんです(笑)それって結構ありがたいことで、つまりコネクションになるんですよね。なんとなく落ちただけなんですけれども、今ではそれが財産になっています。僕自身は院長という立場の自覚はあんまりないんですが、周りの同級生が教授になったりして、結果として偉い人たちとの繋がりができているんです。だからこういったクイズの研究でもサポートをしてもらっています。

── それはかなりショック……。

まぁ真面目な話に戻しますけど(笑)救命救急センターの仕事はとても面白くて刺激を受けました。僕以外の精神科医の先生たちは鬱っぽくなって帰ってきたけど、逆に僕は楽しくなっちゃって。

その3ヶ月間は本当にいろいろなことをやらせてもらいました。例えば離島に行って小さな子どもをケアしたりとか、使命感が満たされるような経験をすることができました。精神科医よりも、そういった分野の方が好きなのかも知れないなと、そんな自分の根幹に触れたような体験でした。

──── それは心強いですね!

最近知り合った脳外科の若い先生は、“新しいことにチャレンジしたい”という自由な気風の方なので、一緒にいろいろと取り組んでいければと考えています。この先生は、精神科の患者さんの脳の形態学を調査して学位を取られているんですよ。だから長年クイズを嗜んでいる人の脳の形態を研究してみたいと思っている僕にとっては絶好のパートナー(笑)クイズをやっている人の脳と、クイズをやっていない同年代の人の脳を比較したら何か新しい発見があるんじゃないかなと睨んでいるんです(笑)

日本クイズ界の長老である村田栄子さんという88歳のクイズプレイヤーの方がいらっしゃるんですが、そんな村田さんの脳にも非常に興味があります。それで去年僕が開催したクイズ大会に村田さんがお越しになった時に「脳の調査に協力してくれませんか?」ってお願いしたんですよ。そうしたら「いくらでも協力するよ、そのかわり先生のところに行くからね」って言われました。これは、調査の後にフグをごちそうして帰っていただくコースですかね(笑)

── 「昨年クイズ大会を開催した」とおっしゃっていましたが、以前から毎年開催されているんですか?

いえいえ、久々の開催です。それまでは「モミジの森杯」というクイズ大会を企画して、全国から錚々たるプレイヤーを集めて楽しんでいたんですが、2011年以降は院長業に専念していたんです。でも突然『Qさま!!』から出演のお話を頂いて、本当にたまたま収録日の予定が空いていたので運命を感じました。

まぁ記念になるかなという軽い気持ちで臨んだのですが、予選をクリアして決勝まで進んだんですよ。結局最後の4人まで残って、運良く一番上に行ったんです。だけど僕と宇治原さんはあまり答えていなくて、実際に活躍していたのは中西(知憲)さんだったり、やくみつるさんだったり……その2人が勝たないとまずいんじゃないかという空気になって(笑)大して答えてもいないのに優勝したらどうしようという考えがよぎった瞬間に落ちて、2位で終わりました(笑)その後も番組には何回か呼んでいただきましたね。

── それがきっかけで、森さんの“クイズ熱”が再び復活したんですね。

はい。そんな体験があって、またクイズに飲み込まれたんです。昨年久しぶりに「モミジの森杯」を開催したのもそうですし、臨床現場でもクイズを使っていろいろと試行錯誤しています。

以前、作業療法士と一緒に認知症病棟の作業療法を担当していたんですが、その時にクイズコーナーがあって、いろいろな種類のクイズを毎回行っていたんです。そんな中で早押し機の回だけ異常に参加率が高いというデータがありました。やっぱり患者さんも一度体験すると「楽しい!」と感じるんじゃないでしょうか。楽しそうな患者さんの顔を見ていると、僕たちも嬉しくなるんです。

しかも、初回と中間と最近の点数を比較すると、他のクイズよりも早押しの方がやけに記憶の定着率が良かったんです。まぁおぼろげにあるデータですから世に出せるものではないですが、その効果は肌で感じられました。他のクイズとは違う“何か”が早押しクイズにはあって、その“何か”が分かれば大きな武器になると思うんですよね。

ちなみにその看護病院は患者さんが2つのクラブに所属する決まりがあったんですけど、20くらいクラブがある中でクイズクラブは参加率がいつも1位でした。

── 早押しクイズの秘められた可能性を感じますね!

ただのパズルみたいなクイズって、勉強の延長線みたいで反応が微妙だったりするんです。でも早押しクイズって「ボタンをポーンと押して答える!」みたいな、何かしびれる感覚があるじゃないですか。クイズ好きのみなさんにも共感してもらえると思うんですが、ボタンを押した瞬間に脳内麻薬のようなものが出るんじゃないかなって(笑)それって、患者さんたちもきっと同じ感覚なんだろうなって感じましたね。

その後、40代で院長になりましたが、院長になると色々なことができますから(笑)忘年会は毎年クイズ大会を催していました。医療につなげるという視点で見れば、医学の用語問題を出題してスタッフの教育につなげたりもしましたね。精神医学の用事って非常に難しいですから、クイズを通して知らず知らずのうちに知識を高めていければいいですね。

しかも毎年やるから、みんなだんだん慣れてくるんですよ。「去年も聞いたよ、先生」なんて言われたりもしますが、そうやって定着していけばいいんです。答えてもらうよりは、知識として身につけてもらいたいから。

── クイズを行うことで、患者さんはどのような反応をされますか?

さまざまな精神の疾患がありますが、統合失調症の患者さんって最初は幻覚や妄想が多いけれど、だんだんと自閉気味になって、感情もない意欲もわかない、ボーッとしたような症状になるわけです。そういった方や発達障害の方、引きこもりの患者さんたちが早押し機に触れると、特に得意な分野に関してはいきいきと解答するんですよ。

「こんな姿を見るのは10年ぶりです」といった、彼らのお母さんからの声を耳にすると、やっぱり何か効果が期待できるんじゃないかなぁと思いますね。

患者さんが取り組めることは限られていますし、“本当に望んでいるのはその先のリカバリー”という言葉もよく使われます。ただ、やっぱり誰もが社会的なものと関わりたいという思いがあって、その取り組みの一環として、クイズを何かに活かすことができればと考えています。

── いろいろなお仕事の中でクイズを導入されていますが、今後はどのような分野に活かしていきたいですか?

認知症治療での活路はあると思います。認知は時間の経過と共にどんどん落ちていきますが、そのいわゆる端境の所というか、認知症まで至らない軽度の認知障害という段階での予防に活かせれば、認知障害のスピードを緩めることができるのではないでしょうか。薬にも頼らず、手軽にできる点もクイズの良い点ですよね。

例えば認知症でほとんど喋らないような人が、いきなり「これは美空ひばりでしょう」と答えると、すごいって思うんですよ。そんな姿を見て涙するご家族もいらっしゃいます。そういった事例をもっと集めて、データを取れたらいいですね。早押し機を使った場合とそうでない場合の認知の定着率の違いや、ADL(日常生活動作)に関連付けた調査も行ってみたいです。

あとは、先ほどお話したように長年クイズを楽しまれているプレイヤーの脳を調べてみたいです。これはなかなかできないことなので、脳外科の先生にも協力していただいて、その結果をぜひみなさんの前で発表できれば嬉しいですね(笑)

── 最後に、医師としての立場で「クイズをやっていて良かった!」と感じるのは、どんな時ですか?

これは精神科医の誰もが感じることかもしれないですが、初めて来院した患者さんとの面談は「1分間が勝負」だと思っています。特に引きこもりの方が病院を訪れるというのはすごく大変なことで、ようやく連れて来たのに「この先生はダメだな」と思われるような話をしたら、そこでもう終わってしまうんですよね。

彼らは自分の部屋という“お城の中”で、アニメだったりアイドルだったりゲームだったりと、自分の好きなことに熱中して生活しています。だから「どんなゲームが好きなの?」という質問はダメなんです。あるゲームの特定のキャラクターだったり、アイドルグループの誰かだったり、もっと踏み込んだ内容の話を広げないと会話が進みません。

逆に言えば、具体的な言葉でつながると患者さんとも一気に打ち解けることができます。僕はクイズをやっているから、森羅万象、さまざまな分野の知識を吸収することが好きで、その知識の幅、量は(他のお医者さんよりも)自負できると思っています。クイズを通して身につけた知識っていろいろな患者さんと出会う中で非常に有効になるんですよ。やっぱりそれがクイズをやっていて良かったなと感じるところですね。

まぁ僕自身も回り道をしまくっていますから、それはそれで何かに活かせているかなとは思います。
>>> 次回はイベント参加者からの質問に対する森さんの回答をご紹介します。イベントの場でしか聞くことができない貴重なお話が満載です。

取材協力:栗林拓司
掲載日時:2019/02/02 11:00
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