事例/インタビュー
学習塾編
-サボローからの挑戦状
 夏期講習日めくりカレンダー-

クイズ/パズルが、モチベーションと
コミュニケーションを生んだ夏

株式会社明光ネットワークジャパン

2015年の夏、「サボロー」と呼ばれるシュールなキャラクターが、ネット上で大きな話題を呼んだことをご存じだろうか?
明光ネットワークジャパン(明光義塾本部)が作成し、広告などに掲載している「サボロー」は、その名の通り「勉強をさぼろうぜ」と子どもたちを誘惑する、本来は“悪役”のキャラクターである。
ところが、2015年7月に、様々な誘い文句で勉強の邪魔をするサボローが描かれた広告が『週刊少年ジャンプ』に掲載されると、Twitterなどで話題となり、サボローが語る誘い文句の数々に、「これはいいヤツ」「むしろこんな友だちがほしい」など絶賛の声が集まり、紹介したツイートが2万回以上のリツイートを記録するなど、大人気を博したのだ。

一方、その盛り上がりとは別に、日本全国の明光義塾の教室内では、サボローが、違う形で確実に子どもたちの心をとらえていた。
それが、教室に掲示された「サボローからの挑戦状 夏期講習日めくりカレンダー」である。

なぜ学習塾がクイズ/パズルを?

明光ネットワークジャパン、プロモーション部係長 岩本祐介氏

この日めくりカレンダーは、A4判の大きさで、サボローのイラストとともに、1日1題のクイズ/パズルが掲載され、毎日めくって新しい問題を解いていくもの。掲載されている問題は、単純に知識を問うものではなく、よく考えないと解けないものがほとんどだ。

独特の味わいをもつサボローのイラストとあいまって、一般に販売しても人気が出るのではないかと思えるようなユニークな日めくりカレンダーだが、なぜ、学習塾がわざわざこのようなグッズを作ったのだろうか?

「夏期講習は、生徒にとって一大イベントなのですが、長い夏休みの間、モチベーションを保ちながら教室に通ってくることは、大変なことでもあります。そこで、生徒のモチベーションを保つような仕組みを作りたいと、毎年考えているのです」(明光ネットワークジャパン、プロモーション部係長 岩本祐介氏)

たとえば、ラジオ体操に行くたびにカードにハンコを押してもらえるのが、子どもにはとても嬉しいものだったりする。そういうちょっとしたことで、生徒のモチベーションが上がることを、教育のプロである同社のスタッフは熟知していた。同社でも『夏のパスポート』というスタンプカードを制作、配布している。しかし、毎年同じことの繰り返しだけでは、生徒に飽きられてしまう。そこで、生徒のやる気を引き出せそうな新しいアイディアを、常に考えていかなければならない。

「今年、サボローというキャラクターを作ったのですが、生徒たちに大変な人気があります。そこでこのサボローを使って、なにかができないかと考えていました」(岩本氏)

そして最終的に、サボローが毎日クイズ/パズルを出題する日めくりカレンダーに決まったのだが、それは次のような理由によるものだった。

「毎回教室に楽しく通ってもらうことが目的ですから、1つは、生徒が『今日はどんなものがあるだろう?』と、見ることが楽しみになるようなものであること。そしてもう1つは、生徒同士、あるいは生徒と先生との間でコミュニケーションが生まれるきっかけになるようなものであること。この2つの観点から最終的に『クイズ/パズルがいいね』となりました」(岩本氏)

日めくりカレンダーには、「正解」がどこにも載っていない。難しい問題でも、安易に正解を見ておしまい、とはできないのだ。
これは、正解を載せないことで、生徒同士で相談しながらとことん考えたり、下級生だけで考えてもわからなければ上級生に聞いてみたり、あるいは先生に聞いてみたりといったコミュニケーションが生まれることを期待してのこと。教室内でのコミュニケーションが広がれば、それが塾へ通うことへのモチベーションにもつながっていく。

最初は社内でのクイズ/パズル作成も検討したが……

明光ネットワークジャパン、プロモーション部係長 岩本祐介氏 / プロモーション部 渡邊アスカ氏

このようにして、日めくりカレンダーの作成が決まったのが、3月の上旬であった。各教室での夏期講習の準備は6月早々から始まるので、スケジュールを逆算すると4月上旬には印刷所にデータを入稿したい。デザインの方はデザイン事務所にまかせているが、クイズ/パズルの問題をどうするか?

大手の学習塾はどこでもそうだが、教材の制作を担当する部署が内部にある。同社でも教務部が日々教材の制作を担当している。

「カレンダーの制作を決めたとき、最初は社内で、自前でクイズ/パズルを作れるのではないかと考えました。『問題を作る』という意味では、教材作成を担当している教務部でいつも行っている業務ですから、クイズ/パズル作成もできるのではないかと思ったのです。しかし、先に述べたような、毎日解きたい気持ちを持たせたり、仲間とのコミュニケーションを生んだりする『楽しくて、内容のバラエティに富んだ問題』は、普通の教材や試験の問題とは違うんですね。そういう楽しさやバラエティ感の演出が、社内作成ではなかなか困難でした」(岩本氏)

そこで、プロモーション部の渡邉アスカ氏が中心となり、クイズ/パズル制作を依頼できる専門家の選定をはじめた。個人でクイズ/パズルを作成しているライターを含め、複数の候補との打ち合わせを経て、最終的にキュービックに依頼することが決まった。その決定に際しては、過去の業務実績などに加えて、最初の打ち合わせでの印象も大きかったと、渡邉氏は言う。

「打ち合わせの時、キュービックさんから、突然“なぞなぞ”をいくつか出されたのです。それがけっこう面白くて、“いろいろな引き出しをたくさんもっていそうだな、楽しさやバラエティ感の演出をうまくやってくれそうだな”と感じたことも、依頼を決めた理由のひとつです」(渡邉氏)。

プロモーション部では、2ヶ月分のクイズ/パズルを作るといっても、ただ問題が埋まっていればいいとは考えていなかった。すでに述べたように、生徒に飽きられないような「楽しくて、内容のバラエティに富んだ問題」が並んでいなければならない。それに加えて、小学校1年生から、高校3年生までの生徒が同じ教室に通っているため、知識の前提に幅がある。正解を見ても、これはまだ学校で習っていない、ということになると、生徒にとってつまらない。

「その点も、非常によく考えていただいて、小学生から高校生まで、どの学年の生徒さんでも楽しめる問題を作っていただきました。中には、こちらからの意見で、差し戻して作り直していただいたものもありましたが、趣旨をよくご理解いただいて対応していただいたので、助かりました」(岩本氏)

こうして62問のクイズ/パズルが用意されたが、その並び順を考えてカレンダーに落とし込んでいくのは、プロモーション部の仕事となった。

「問題のジャンルや難易度、さらにイラストパターンとの整合性を考えながら並び順を決めるのが、けっこう大変な作業で……。試行錯誤しながら完成させました」(渡邉氏)

サボローからの挑戦状 夏期講習日めくりカレンダー

「明日からクイズ/パズルはないの?」

完成した日めくりカレンダーの実物を見たとき、担当者一同、とてもいいものができたと思ったという。だが、作った側は満足でも、生徒たちに楽しんでもらえなければ、意味がない。

「初めての試みなので、生徒の反応がどうなのか少し心配でしたが、教室から届いてきた声は、非常に良いものでした。各教室から、『休み時間などになると、生徒たちが集まって、ワイワイ言いながらみんなでクイズ/パズルを解いている』『問題がわからないと、上級生に聞いたり、先生に聞いたりして、クイズ/パズルを起点にしたコミュニケーションが生まれている』との報告がたくさん上がってきています。また、夏期講習の最終日には『明日からはクイズ/パズルはないの?』と生徒に訊かれたという話もありました。生徒たちが楽しんでくれたことが、本当にうれしいですね」(岩本氏)

このように、日めくりカレンダーのクイズ/パズルは生徒から歓迎され、当初の企画目的は十分に達成できたのだが、生徒たちの好反応の背景には、クイズ/パズルという形式が、明光義塾が基本理念として掲げている「自立学習」にもマッチしていたこともあるのではないかと、岩本氏は考えている。
「自立学習」とは、自分で学べる力が身につくことを目標に、正しい勉強の仕方を教えるというもの。「先生が公式や解法を生徒に教えこんで覚えさせるだけの指導」ではなく、ノートの取り方や、正しい考えに至るまでのヒントを示し、生徒自身が調べたり、考えたりすることの手助けをするイメージである。

「私たちの塾では日常的に、自立学習の理念に基づいた指導が行われています。そこで、“考えるきっかけ”になるクイズ/パズルは、普段の教室での指導の雰囲気に非常によくマッチするものだったのだと思います。生徒も先生も、いつも行っている学習に近い『答えをすぐに得ることが目的の問題』ではなく、考えるきっかけになる面白い問題ということで、好意的に受け入れてくれたのではないでしょうか」(岩本氏)

もちろん、このカレンダーによって、すぐに試験の点数が何点上がる、という目に見える直接的な効果はないだろう。しかし、単に答えを知っておしまいではない、自分で考えることのきっかけになるクイズ/パズルは、本当の意味での学ぶことへの、よい道標となるようだ。

クイズ/パズルが残した夏の思い出が、子どもたちの心の中でいつまでも輝いていることを、きっとサボローも願っているのではないだろうか。

明光義塾本部
プロモーション部係長
岩本 祐介
明光義塾本部
プロモーション部
渡邊 アスカ
日本初の個別指導塾「明光義塾」などの運営を行う。東証一部上場。全国に、2,137教室(2015年2月末現在)を展開する、学習塾業界最大手の一角。今回の「日めくりカレンダー」は、2015年の夏期講習用に作成され、教室に導入された。
取材協力:椎原芳貴
掲載日時:2015/10/21 11:00
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