事例/インタビュー
日本初の“電子クイズおもちゃ”誕生秘話

なぜ、海外オリジナル問題の
8割が使えなかったのか?

株式会社メガハウス

おもちゃがクイズを出題

「オーケイ!今から皆さんに、いろんなジャンルの問題を出します。ウソかホントかを当ててください。解答者の答えが正しかったら1ポイントゲットできます。しかし、間違った場合は、2ポイント失います」

取材場所である会議室に、司会者の軽快な声が響き、ゲームがはじまった。だが実は、「司会者」はどこにもいない。声は、テーブルに置かれた「雑学ペディア」から発せられていたものだ。

「雑学ペディア」は、株式会社メガハウスがこの7月(注:2015年)に発売したクイズゲームである。ゲームといっても、テレビゲームやスマホアプリの類ではない。25センチほどの星型の筐体を持つゲーム機だ。
この本体に、スポーツ、宇宙、食べ物など、さまざまなジャンルに渡った雑学クイズが1000題も収録されている。星形の本体には、5つの光る大型ボタンと、「ウソ」「ホント」の解答選択ボタンがあり、これらのボタンと、冒頭に紹介したような司会者の音声によってゲームがナビゲートされる。

「行きますよー。ウソか?ホントか? 『江戸時代に、日本でも象は飼われていた』 オレンジのプレイヤー、どう思いますか?」

ゲーム機のオレンジのボタンが点灯して解答者を指定する。指定された解答者は、ゲーム機中央にある「ウソ」「ホント」のいずれかのボタンを押して答える。そして、解答が正しければポイントが加算、間違いであれば減算されていく。このように、出題されるクイズ問題に対して、「ウソ」「ホント」の2択で解答していくのが雑学ペディアの遊び方だ。基本の遊び方は単純なので、だれでもすぐにゲームを始められる。

基本は簡単だが、指定された者が問題に答えていくだけではなく、ある解答者が別の解答者を指定する時があったり、早押しがあったり、ボーナスポイントがあったりと、ゲームの形式はラウンド(進行)ごとにバラエティに富んでいる。

また、音声や効果音での演出も多数用意されており、ゲームにメリハリがつけられている。これは、子どもたちが集まって遊んだらかなり盛り上がりそうだし、また、問題は文字通り「雑学」で、大人が聞いても「へぇー」と唸るものも多い。大人が集まるちょっとしたパーティーの余興などで遊んでも、十分に楽しめるクオリティである。

この「雑学ペディア」のクイズコンテンツ制作に、キュービックが全面的に関わっている。

ボタンがついたモノであることの楽しさに着目

もともと雑学ペディアは、海外で開発・発売されていたおもちゃである。海外の見本市で、株式会社メガハウス・トイ事業部企画チームの飯田恭崇氏の目に留まり、ローカライズして日本で発売する企画が立ち上がった。

スマホのアプリやテレビゲームには、クイズのゲームは数多く存在するが、このゲームは本体にボタンがついているのがポイントだ。早押しで答えたり、あるいは人のボタンを押して解答させるラウンドがあったりという、アナログのボタンがあってこその楽しさに、飯田氏は注目したという。

ちなみに、カード式のクイズゲームは過去にあったが、このような電子式のクイズ玩具で音声により司会進行や盛り上げまでやってくれるのは非常に珍しく、おそらく日本で初めてなのではないかと思われる。

クイズをローカライズする難しさに直面

雑学ペディアには1000題のクイズが収録されている。これはオリジナルの海外版も同じで、1000題のクイズが収録されていた。もちろん英語である。ローカライズ企画は、この1000題のオリジナルクイズの英文テキストを入手し、邦訳、確認するところから始まった。

ところが、邦訳されたオリジナル問題を確認し始めてすぐ、それらすべてをそのまま使えるわけではないことに、飯田氏は気づいた。

クイズの問題は地域性が強い。例えば、海外の特定の国の歴史や文化を背景にしたクイズを、そのまま日本語に翻訳しても、日本で出題するクイズとしては成り立たないことは、容易に想像できる。また、日本人の常識や倫理観になじまない、商標などの権利関係で問題が生じる可能性がありそう、などの障壁もある。
さらに、企画チームで想定していたユーザー層に対して、問題の難易度が全体的にやや高めであることもわかった。

これらの点をクリアするために、クイズ問題を全面的に見直し、必要に応じて手直しや新規作成などのローカライズ作業が必要となった。だが、それを社内のリソースだけで行うことは不可能であり、外部の力を借りなければならなかった。

当初、飯田氏は、以前から付き合いのあった企画会社などに、クイズのローカライズ作業を手伝ってもらえないか相談をした。ところが、よい返事が得られない。「どの会社からも、予定されたスケジュール内でこれだけのボリュームのクイズのローカライズ作業をこなすことは到底できないと言われてしまって、ほとほと困りました」(飯田氏)

そこで、飯田氏は、クイズ制作の専門家を検索し、キュービックにアクセス。掲載するクイズ全体についての精査、監修と、必要に応じた新規問題の制作を依頼した。

今までになかったクイズ玩具を完璧に作る!

キュービックにとって、依頼された作業内容自体は手慣れたものであり、大きな問題はない。だが、作業のボリュームに対して、提示されたスケジュールが、かなりタイトなものであった。キュービック制作部門の仲野は、依頼を受けられるかどうか、かなり迷ったという。

しかし、日本でのクイズ普及を企業理念の1つに掲げるキュービック、とりわけ、子どもたちにクイズに親しんでもらう環境づくりを夢としている仲野にとって、日本で初めての「クイズ玩具」の開発は、ぜひとも関わりたい案件だった。そこで、仲野は制作部門のスケジュールをなんとか調整し、受任することとした。

そして、やるからには、単に横のものを縦にした翻訳ものではない、日本人のための日本初のクイズ玩具を完璧に作ることを目標に、メガハウスの企画チームとキュービックが一体となって制作に取り組むことになった。

なぜ、大量の新規問題作成が必要となったのか?

スケジュールがタイトであった理由の1つには、当初、開発チームが、多少の新規作成や修正などはあるとしても、それほど大量の差し替え、新規作成が必要だとは考えていなかったことがある。

ところが、仲野がオリジナル問題を精査してみたところ、そのまま使えそうなものは2割程度しかないことがわかった。実に8割にあたる、約800題もの新規問題の作成が必要となったのだ。

これはどうしてなのだろうか?
まず、先に述べたように、企画チームでも気づいていた「クイズ問題の地域性」という課題があった。だが、さらに2つの大きな課題があった。

1点目の課題は、クイズ制作のプロの目から見ると、いわゆる「ウラ取り」(解答の根拠)の点で、不明瞭な問題が多数含まれていたことである。

キュービックが制作するクイズ問題は常に、「ウラ取り」を徹底的に行っている。単に「あるWebサイトに、こういう情報があった」という程度では、問題外である。専門書籍などの一次資料にあたり、学術的に間違っていないか、きちんとした根拠があるか、常に厳密にチェックする。この厳密性こそ、クイズ制作の専門家が提供する「商品としてのクイズ」に欠かせない品質保証だと考えている仲野にとって、オリジナルの中に含まれていたウラ取りが不明瞭な問題は、到底使えないものであった。

2点目の課題として、地域性やウラ取りの点はクリアしていても、クイズの「見せ方」として、不満が残る問題があった。同じ素材(情報)でも、出題の仕方によって面白くもつまらなくもなるところが、クイズの奥深さである。当然、より面白く見せるように工夫するのが、プロのワザであるが、オリジナルには、この点で不満が残る問題も含まれていた。これらについては、素材は活かしつつ、問題文を1から作り直すことにした。

これらの点であいまいな問題を省いていったところ、そのまま使えるのが約200題、新規作成が約800題という結果になったのだ。

クライアントとキュービックとの共同作業がよりよい製品を産んだ

「正直言って、依頼前は、キュービックさんには最終チェックをしてもらう程度でいいかなという認識でした」という飯田氏。

だが、実際には上記のような大量の新規作成が発生した。このことは、仲野をはじめとしたキュービックの作業チームにとっても大変なことであったが、メガハウス側も、飯田氏の所属する開発チーム、また品質管理チームなどが問題のレベル感をはじめさまざまなチェックを幾度に渡って行うことになった。そのため、メガハウスとキュービックとの間では、赤字の入ったクイズ原稿のファイルを、やりとりする日々が続いたという。

このように、メガハウスとキュービックが一丸となって完成させた「雑学ペディア」は、これまでに例のないクイズおもちゃとして、展示会などでも高い注目を浴びている。

そして、その品質は客観的にも評価され、その年に国内で発売されたおもちゃから優れたものを選んで表彰する2015年「日本おもちゃ大賞」のエデュケーショナル・トイ部門において「雑学ペディア」は優秀賞の栄冠に輝いた。

ところで、先述のように、雑学ペディアには1000題のクイズが収録されている。この数はかなり多いが、遊びこんでいけば、いつかはやり尽くしてしまうことになる。

まだ発売されたばかりの製品だが、気になるのは、新しい問題を搭載した続編が考えられるのかということ。
この点について、飯田氏は、「市場の反応が良ければ、当然続きを出そうという声が社内で上がるでしょう」と述べる。そして「もし続編を制作するとしたら、その時もぜひキュービックさんに制作をお願いします」と付け加えた。

トイ事業部企画チーム
飯田 恭崇
~ウソ・ホント?!クイズ1000Q~ 雑学ペディア

「雑学ペディア」は、科学、宇宙、食べ物などカテゴリーが多岐にわたる雑学問題1000問を収録した最大5人までのプレーヤーが同時に楽しめるクイズゲームです。

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取材協力:椎原芳貴
掲載日時:2015/8/26 11:00
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